しらたまが道草を採って食うブログ

私ついていくよ どんな辛い野食の闇の中でさえ

泥抜きせずナマズを食べたけど幸いながら美味かった - ナマズの天ぷら

【2021.6.18追記】 

① 本記事では泥抜きせずにナマズを食べていますが、「ナマズを食べるときには泥抜きする必要がない」ということを必ずしも意味しません。私が今回のナマズを釣った初冬という季節に鑑みると、あまり餌を食べなくなっており、したがって体内のゲオスミン等の物質がある程度代謝されていたため、ほとんどにおいが気にならなかったという可能性が高いです。ナマズを食する際は、季節的要因、生息していた場所の水質、個体の大きさ(成長途上の個体なのか成熟した個体なのか)などを総合的に勘案して判断してください。

 

② 当時は「内臓にいた寄生虫顎口虫だろうか」と書いていますが、画像を見る限り顎口虫ではないのではないかと思えてきました。

顎口虫|「食品衛生の窓」東京都福祉保健局

おそらく線虫の一種だと思われますが、線虫はただでさえ種類が多く、そのうえナマズに寄生する線虫もかなりの数に上るようです。

https://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/files/public/4/43828/20170818095625922791/BullHiroshimaUnivMuseum_8_61.pdf

https://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/files/public/4/45338/20180323150039919222/BullHiroshimaUnivMuseum_9_121.pdf

この先、特定できる見込みは全くないですが、折を見て調査したいと思います。いや、やっぱり調査しないかもしれません。

 

 

 

〜以下、本編〜

 

 

 

注意: 本記事では魚の内臓の写真を掲載しています。苦手な方はご注意ください。

 

 

ナマズ釣りっていつのまにか人気になりましたね。昔からルアー(擬似餌)によるナマズ釣りには一部にファンがいたけど、この十数年で一気にメジャーなターゲットになったような気がする。でもその気持ちはものすごくわかる。その辺の浅い川とか田んぼの間を流れる水路に、何十センチもある肉食魚が生息してるなんて、ロマンがある話じゃないですか。

かくいう私もナマズという魚がとても好きです。ガキの頃、台風の翌日に近所の水路を覗きに行ったらナマズがたくさん避難してきていて、それを近所のジジイがタモで掬っていた光景を思い出すだけで、大人になった今も、胸の奥と下半身が熱くなります。

 

 

せっかく時間ができたので今のうちに釣り場の開拓をしておこうと思い、愛知県内の某河川にやってきた。特に何を狙うともなく、バスでもナマズでもニゴイでも何でもいいから釣れればいいやという、いつものフリースタイルで実釣開始。

20分が経過する頃、私は何かいい野草がないかと辺りをキョロキョロし始めます。そうです、もう「今日はたぶんボウズだな」モードに入っています。私の人生の座右の銘は「自分にも他人にも期待するな」でして、羨み、妬み、怒り、苛立ち、欲望など人間の苦しみのもとになる感情は、ひとえに自分への期待あるいは他人への期待から生ずるものだと思っています。心穏やかに過ごすにはこの世に期待しないこと。釣りに行っても、何かが釣れるかもしれないと期待するな、数時間後の自分を悲しませるだけなのだから。大人しく野草でも摘んで帰るくらいがちょうどいい。

 

オカッパリは足で釣るという言葉がありまして、とにかく移動しながらの釣りになります。ルアーを投げつつ、アクションを加えつつ、その辺をキョロキョロしつつ、スマホいじりつつ、ルアーを回収しつつ、歩きつつ、という具合です。

野草を見てたら、竿にアタリらしき反応が出た。どうせ藻にでも引っ掛かったんだろう。どうせ魚ではない。期待はしていないが、とりあえず合わせるだけ合わせてみましょう。

 

 

 

フィーーーッシュ!!!!!!(大声)

 

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ナマズトップウォーターのルアー(水面に浮くタイプのこと)での釣りが一般的なんですけど冬という季節を考えてボトムを狙ってたんですよ こんな時期の餌といえば動きが早くないドジョウやヨシノボリのような川底型の小魚かまだ冬眠に入っていないザリガニ・エビになるだろうと思ったのでザリガニを模したルアーを川底でゆっくりと動かしていたんです 冬のザリガニパターンが見事ハマったわけですよ(オタクならではの早口)

サイズは43センチ、そこまで大きくはないですが、釣れてくれてありがたいし、愛嬌があって可愛いですね。

食べるけど

 

 

 

はい

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現地で血抜きして持ち帰りました。泥抜きしてません。川はそんなにきれいじゃなかったです。大丈夫なんでしょうか。

 

ナマズ調理の鉄則は、表面のヌメリを徹底的に落とすこと。魚のヌメリを取る方法はいくつもあり、また魚種によっても異なるが、今回は熱湯でヌメリを固める方法をやってみます。

お湯をかける前

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かけた後。わかりにくいけど表面がちょっと白くなってる。
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包丁でヌメリをこそげとった後
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包丁についている黄色いやつがヌメリ。ヒレについてるヌメリも落としていきますが、包丁だと取りにくいので細かいところはスポンジでこすります。


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熱湯で表皮の色素がどこかに行ってしまいましたが、まだ皮はついています。

 

3枚におろす前に観察してみましょう。


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歯。けっこうするどい。手袋していない指で口を掴むと傷ができる程度には痛い。


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胸びれ。鋸歯状のとげがあってこれなめちゃくちゃ硬いし痛い。捌く前に胸びれは切り落としておきます。キッチンバサミでは歯が立たなかったのでニッパーを使いました。


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内臓。食欲旺盛でないこの時期だからか、思ったより内臓の容量が少なめ。卵巣がついてるので女の子ですね。


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このもじゃもじゃしたの何?


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胃袋の表面についてる線状のやつは寄生虫ですね。

あ、さっきのもじゃもじゃは全部寄生虫か。ためしに水滴を垂らしてたらモニョモニョし始めました。ふつうに何かの器官かと思ったわ。顎口虫というやつですね。どの顎口虫なのかまではわかりません。ナマズなので日本顎口虫か有棘顎口虫でしょうか。いや、これも食べてみてよっていうリクエストは今の自分には受け入れられませんね…

顎口虫|「食品衛生の窓」東京都福祉保健局

https://www.fsc.go.jp/sonota/hazard/H22_31.pdf

 

胃を開いて未消化物を見てみましょう。
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水温が下がってきていてあまり口を使わなくなっているのだろう、ほとんど未消化物は残ってない。唯一残っていたのが何かの小魚。ドジョウあたりでしょうか。


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卵巣は食べます。

 


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3枚におろして皮を引きました。半身は失敗してボロボロになってしまった。こうして見ると、何の身か全くわからない。そして匂いを嗅いでも泥臭さやアスファルト臭さ(ゲオスミン)は皆無。これはいけそう。

 

 

野草も採ってきているので、天ぷらにします。こいついつも天ぷらにしてんな。
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美味い!程よく脂が乗っていて、ふわふわの身質。旨味もしっかりある。臭みは皆無、かなり上等だと思う。

 

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例によって骨もじっくり揚げて食べる。頭に近い骨は太くて硬かったが、それ以外は問題なし。

 

 

結論としては、泥抜きなしでも美味しく食べることができた。ただ、冬場の餌をあまり食べていない個体のため臭みが少なかった可能性もあるので、あと何回かサンプルを試してみる必要はありそう。

 

 

(釣行日: 2020.12.13)

魚が釣れないのでクレソンとセリを摘む

今年最後の琵琶湖釣行の野草編。釣り編はこちら↓

 

寒いだけでなかなか魚が釣れません。最後は優しいハスくんが釣れてくれたのだが、それまでは釣果はほぼ諦めて野草採取モードに入っていた。早く見極めること、複数の選択肢を持っておくことは、心の安寧にとって重要です。

 

水路に生えてますね。

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クレソンです。アブラナ科なので小さいときのカブみたいな葉っぱをしている。食べるとピリッとした辛味がある。

もともと外来植物ですし、生命力が強いのでどうせすぐにまた増殖するでしょうから、気にせず根っこから採ります。前回9月に琵琶湖に来た時に採取できたのはツユクサ、オニノゲシスベリヒユだったので、クレソンを採れた時点ですでに前回よりは野草レベルが高い。お土産ができて一安心ですね。

 

次の場所に移動。こちらも水路に生えてますね。

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セリです。香りをかげばわかります。

ちなみに同じセリ科の植物にドクゼリというのがあって、セリと同じく水辺に生えているのでセリと誤食して毒にやられる事故が起こりがちである。ドクゼリは全体に猛毒のポリイン化合物(シクトキシン類)を含んでおり、トリカブトドクウツギと並んで日本の三大毒草とされている。セリとは葉のつき方が違うこと、セリの方には特有の芳香があること、そして根っこの形状が違うことから、両者を見分けることができる。セリとドクゼリ(東京都薬用植物園)

上の写真はセリ。下の写真はドクゼリ。ドクゼリの根っこはたけのこのような地下茎になっている。葉の形もドクゼリの方がギザギザ感が強いです。

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試しにドクゼリを葉っぱの香りをかいでみる。…あれ?いい香りするんですけど。ドクゼリって香りはないんじゃなかったっけ?え?これほんとにドクゼリ?逆にさっき採ったのって本当にセリ?え?

さらに調べてみると、ドクゼリにも香りはわずかにあるらしい。ドクゼリもけっこういい香りだったぞ…。まぁ見分けるポイントがいくつもあるので、それらのどれか一つだけで判断するのではなくて、すべてに当てはまるかを確認しないといけないっていうことですね。

自然毒のリスクプロファイル:高等植物:ドクゼリ

 

 

クレソンとセリは何をしたって美味いに決まってるので、大船に乗ったつもりで調理していきます。

 

まずはクレソンのニンニク炒め。
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ニンニクと炒めただけなのに美味い。アブラナ科だけあって味がしっかりしている。クレソンは生よりも火を通した方が絶対美味い。

 

天ぷら。2枚目がクレソンで3枚目がセリ。美味くない訳がない。
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天丼か天蕎麦が食いたいですね。しかしご飯を炊いてないし、手持ちの蕎麦がないので、春雨を茹でます。天ぷらと湯がいたセリを乗せて天春雨に。一応言っておくけど、天春雨ってのは「天海春香役の雨宮天」の略ではないですからね。キャスト違いますしね、そこは間違えないように。
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クレソンの辛子和え。だから美味くない訳がない。
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白和え。せやから美味くない訳がn

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セリとクレソンをごちゃ混ぜにしちゃいました。それでもセリの存在はその香りで分かるだろうと思いきや、完全にクレソンに負けている。セリの香りってやっぱり繊細なんだな。ちなみに白和えの衣には胡麻ではなく鬼胡桃を使っています。コクがあって美味いけど、セイヨウグルミよりもホロッとした食感なので衣の食感が同化してしまって、そこだけが惜しかった。

 

 

 

クレソンやセリはお土産に最適です。なんなら変な魚釣ってくるより満足度が高いので、是非きれいな水辺に行ったときは探してみてください。

 

今年のハス釣り納め - ハスの天ぷら

11月の3連休、また琵琶湖に釣りに来た。

紅葉のピーク。琵琶湖に向かう途中、車から望む山々が色づいて大変美しく、このまま釣りに行かなかったとしてもこの紅葉を見れただけでも車を走らせた甲斐があるとさえ思った。思っただけで、紅葉だけ見て帰るなんてことはなくて琵琶湖にしっかりと到着してるわけです。人間は、言葉ではなく行動によって評価されなければなりません。口ばかりで、行動が伴っていない人間は信用してはいけません。

 

 

はい、湖北

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琵琶湖周辺の色づいた木々が、秋の空に映えて大変美しい。このまま竿を出さずに帰ったとしても、琵琶湖に来た甲斐があると思った。思っただけで、紅葉だけ見て帰るなんてことはなくてしっかり竿を出してるわけです。人間は、言葉ではなく行動によって評価されなければなりません。口ばかりで、行動が伴っていない人間は信用してはいけません。

昨日までとても暖かな陽気だったので、油断して薄着で来たのだが、風が強くてとても寒い。なんでその辺のコンビニに行くみたいな格好で来てしまったのか。寒すぎてラブサムバディになった。

風が強すぎて全然ルアーも飛ばない。明らかに体温が奪われているので、いったんここでの釣りは諦めて風のあたらない場所で野草探しをしつつ、体力回復に勤しむ。

 

いっそ型が良ければブルーギルでもええわと思って移動するが、移動先の釣り場は生命感なし。結果が出ないときに目標を引き下げることが必ずしも良い選択とは限らないという、先日職場で上司から言われたコメントをふと思い出す。うっせ

それにしても、琵琶湖のオカッパリのバス釣りって、ウェーダー着てヘビキャロをぶん投げる以外どうやればいいんですかね。私がメインで行くのは湖北・湖東エリアなんですが、長浜市の漁港って基本関係者以外立ち入り禁止になってるので、そもそもオカッパリできる場所自体が多くないですし。

 

 

昼食後、河川が流れ込んでいるエリアに移動。もうニゴイでも何でもいいから釣れてくれ責任持って食べるからという意地汚さを胸に抱いてスプーンを投げる。

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ハスが釣れてくれました。ハスは夏場の魚ですが、残党が残っていたようです。尻びれの形からメスでしょう(参考: ハス | 淡水魚図鑑(在来種) | 図鑑 | 大阪府立環境農林水産総合研究所)。痩せているので、かなり遅めの産卵を終えた落ちハスでしょうか。僕はバスを釣るのが下手なので、そこにいればルアーにガンガンアタックしてきてくれて釣り人があまり多くない砂浜なんかにも回遊してきてくれるハスは狙いやすくて好きです。

群れで行動するので他にもいるかと思い投げ続けますが反応なく、釣行を終了。

 

 

 

今回の琵琶湖遊びの成果はハス一尾、クレソン、セリ。

前回ハスを釣ったときは塩焼きにして大変美味しかったが、今回は天ぷらにしてみましょうか。

 

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クレソン
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セリ
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食材をきっちり使い切ることに最近凝ってるので、頭と骨も素揚げにして食べます。

ハスは川魚っぽいクセが少なく、フワフワできめ細かい身質。キスとかハゼと比べても遜色ないくらい美味い。小骨はたしかにあるけど、大型の個体でなければそこまで小骨が硬いわけでもないので、そこまで神経質にならなくてもいいのではと思う。

次の夏が楽しみですね。

 

(釣行日: 2020.11.21)

秋の味覚イナゴを食べる - 佃煮

秋の味覚といえば、植物質のものでいえば新米、栗、銀杏、松茸、さつま芋、里芋あたりが思い浮かぶだろう。動物質のもので真っ先に思い浮かぶのは秋刀魚だろうが、年々悪くなる漁獲量にかんがみれば、いつまでも秋の味覚ともてはやして大量消費しているわけにはいかない。そうなると必然的に、秋の味覚の動物質部門の王者候補としてイナゴが浮かび上がってくる。まあ、筆者としては戻り鰹だと思ってるんですが。

昆虫のなかで、私がガキの頃からある意味一番馴染みのあるのがイナゴなんですよね。子どもの頃、夏から秋にかけてよくイナゴを採って遊んだものです。子どもだったのでむごい遊び方もしてましたね。ごめんな。

 

 

日本は全国的に虫を食べる文化が昔からあったわけだが、全国的に最も広く受け入れられている虫がイナゴ。1919年、農務省の三宅恒方博士が行った調査の報告書『食用及薬用昆虫ニ関スル調査』では、都道府県ごとの食用昆虫をまとめているが、イナゴはもっとも多くの都道府県で食されている。どうでもいいが、この調査には色んな虫が登場するが、聞き取りの過程で結局何の虫か判明しなかったのであろう「昆虫学上の意味不明のもの」が少数存在する。ダークマターすぎる。

さらに1986年には、地理学者・生態人類学者・民族生物学者である野中健一先生が同様の調査をされたところ、イナゴは45の都道府県で食されていたという結果になった(野中健一『昆虫食にみられる自然と人間のかかわり』1987)。あるものが人間にとっての有力な食材たりうるためには、獲得のしやすさ以前の問題として、発生個体数の多さや発生の周期性が重要な要素になってくるけど、イナゴは水田の1年のサイクルのなかで必ず発生する昆虫であり、食材として利用可能性が大きいというのはよく理解できる。

ちなみに他の虫では、1986年の調査ではハチの子は42、カミキリムシやガの幼虫は29、カイコは27の都道府県で食べられているという結果。ハチの子って結構いろんなところで食べられてるんだな。

 

 

当然、現代においては虫を食べない人の方が多いのだろうが、それでも昆虫食文化は日本各地にまだ残っている。今でこそ、2013年の国連食糧農業機関(FAO)による昆虫の食糧・飼料利用に関する報告書を契機として昆虫食に脚光が当てられ始めているけど、そういう未来志向の話を抜きにして考えたときに、現代日本における昆虫食の位置づけって何なんでしょうね。昆虫食を説明する際に「貴重なタンパク源」という常套句が用いられることがあるが、果たして本当にそれで説明できているんだろうかという疑念がどうも払拭できない。昔の山間部の農村であればそういう面は多少あったとは思うけども、現代では他に安価なタンパク源が豊富にあるわけで、それにもかかわらず昆虫を食べるという文化が残っているのだから「貴重なタンパク源」では説明がつかない。

野中先生は、現代のみならず過去の農村にあっても、昆虫食を「貴重なタンパク源」という栄養学的な考え方でのみ説明することには懐疑的である。天竜川上流ではカジカなどの魚が採れるにもかかわらずざざ虫を採取してきたし、田んぼの少ない地域、しかも海の近くで海産物に恵まれた地域であるにもかかわらず、わざわざ田んぼのある地域に遠出してイナゴを採りに行ったという事例などから、季節のものとして昆虫の採食を楽しむという文化的なものとして捉えている。七草粥だってそうですしね。

昨今の栄養学的・農学的現地からの昆虫食見直しの機運と、昆虫食を気持ち悪がる現代人が大半であって昆虫食を受け入れる準備なんてできていないという事実の間とのギャップは、今後どう埋まっていくんでしょうかね。蟲ソムリエ・蟲喰ロトワこと佐伯真二郎さんがトノサマバッタの食糧利用の研究に着手した頃、ある大学教授から「昆虫食というテーマは、どうやってマーケットを作り出すかという経営学的問題であって、農学的な問題ではない」というようなことを言われたそうだが、昆虫食の供給と需要を考えたときに需要サイドこそが課題であるという認識のもと発せられた言葉なのだろう。(佐伯真二郎『おいしい昆虫記』)佐伯さんもこの本の中で、昆虫食の実用化への賛同者がなかなか現れないことに対して感じた焦りと、虫だというだけで一も二もなく気持ち悪がる社会への苛立ちを吐露している。

 

 

 

 

昆虫食の未来にあれこれ思い巡らせたところで、自分が虫を食べないことには始まらない。まずは手っ取り早く、実家の田んぼにいるイナゴでも捕まえて食べてみるかと思ったわけです。イナゴは小学生のときに食べたことがあって、探検クラブみたいなやつでみんなでイナゴを採りにいって食べたんですよね。それがわりと普通に美味かったので、それ以来、イナゴは私の中で食材扱いになっていたのだが、約20年を経てようやく2回目のご相伴に預かることとなった。

 

イナゴの産卵は9月頃から始まり、9月中下旬が最盛期となる。しかし既に11月中旬、その辺にイナゴはいるが、なんだがサイズも小さく、最盛期の緑緑しさがない。やはり食材は旬に頂くべきですね。

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コバネイナゴ。日本にはハネナガイナゴという、その名の通り羽が長いやつもいるが、僕が見たことがあるのはたぶんコバネイナゴだけ。

 

童心にかえって捕まえます。

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30匹くらい捕まえました。やっぱり9〜10月に比べて圧倒的に数が少なかったです。

 

5時間くらい糞出しして、調理。まず茹でます。f:id:shiratamarr:20201202111330j:image
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茹で上がったイナゴの色は鮮やかで綺麗ですね。日本の秋の色です。とりわけ脚が美しい。ここだけ抜き出すと脚フェチみたいに聞こえるな。

 

初物はシンプルに、をモットーにしているので、まずは油を敷いて炒って食べてみます。

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揚げたカルシウムの味。甲殻類の殻の味というより、魚の骨せんべいに虫の風味を加えた感じ。食べ慣れると中身の味もちゃんと感じられてくる。ほのか旨味があるけど、決して強くないので、あまりシンプルな食べ方だとぼやけるかな。誰がつけたランキングだったか忘れたけど、バッタ科の美味しさの序列は、コオロギ・トノサマバッタ>イナゴ>>>>>ショウリョウバッタみたいな感じらしい。たしかにイナゴはある程度調味料に頼った調理の必要がありそうで、佃煮は保存性だけでなくそういうイナゴの特性も踏まえたベストな調理法なのだろう。

 

ということで佃煮にします。佃煮っていうけど、私のイメージでは田作りのイメージなんですよね。乾煎りして、ちょっと煮詰めた砂糖と醤油を絡めたら完成で、あまりコトコト煮るイメージがない。佃煮は家庭ごとに味が違うと言いますし、まあそのやり方でいきましょう。

 

乾煎り
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実は1匹だけショウリョウバッタが採れたので、試しに食べてみようと思います。

 

できました。
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しっかり炒ったので脚も頭もサックサクで固さは気にならない。口あたりが悪いから脚は取った方がいいという人もいますが、そんなこと気にしてる人は初めから虫なんて食べません。

油で炒ったときよりも明らかにイナゴ特有の味が出ていて、なかなか美味い。砂糖多めの甘辛に仕上げたので酒に合う。信州とか会津グルコース感強めの日本酒を合わせるとよいかと思います。ちなみに、バッタはエビだという言説がネット上で蔓延っているが、どう味わってもエビの風味ではない。


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個体によって美味しさに差があるなと思ってたら、どうやら腹に卵と思しき黄色いものが詰まったやつの方がコクがあるようです。11月はすでに最盛期を過ぎていますが、何組か交尾中のイナゴも捕まえたので、産卵を控えた個体がまだいたのでしょう。

この点に関するツイートをしたら、有識者のフォロワーから、一部の昆虫は鶏卵に含まれる卵アルブミンアミノ酸配列が類似するタンパク質を産生するので、鶏卵に似た濃い脂質とタンパク質の味がすることはありうるとの見解を頂いた。ありがとうフォロワー。

 

いました、ショウリョウバッタ

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別に不味くはないけど、イナゴの方が旨味があると思う。強いて食べる必要はないかな。今「そもそも虫自体、強いて食べる必要はないだろ」って思った人は正直に手を挙げてください。

 

 

 

イナゴはやっぱり食材でした。おはよう日本、今日はここで失礼します。今日も一日元気にお過ごし下さい。

 

 

(採取日 2020.11.15)

 

菱の実を買って食べてみた - 天ぷら・酢豚風炒め物

昔から野池なんかで釣りをしていたので、菱という水生植物は見慣れていた。そして秋を超えると岸にトゲトゲした黒い殻の禍々しい実が落ちているが、それが菱の実であること、そして食べられるらしいことも何となく知っていた。

 

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ほんと何なのこの形。忍者が使っていたというマキビシはこの菱の実だが、この形を見れば忍者でなくても利用したくなる。嫌いな上司の椅子に置きたいもん。

 

菱は、水中の土に根っこが生えていて、水中を長い茎がスーと伸びて、水面にあの菱形を連ねたような形の葉っぱを浮かべるという構造になっている。菱の実ってどこに付いてるの。全くもって謎である。

 

 

 

7月頃、市が管理している近所の池に菱が繁茂しているのを見つけ、シーズンになったら実を採ろうと考えていた。菱の実は鮮度が命らしく、9〜10月のごく短い時期にしか採れない。収穫を楽しみにしていたのだが、8月に再度見に行ってみたところ、あれだけ繁茂していた菱が消えているではないか。何が起こったのだ。池の周囲も草刈りされたようで、すってんてんになっている。どうやら菱は行政によって一掃されてしまったようだ。

菱が何をしたというのだ。静かにそこに佇んでいただけではないか。外来生物というわけでもない。夏の盛りでも池の1/4程度を覆っていただけだから、秋に向かうこれからの季節にそれ以上繁茂する心配もない。菱を一掃して君は何を得たのだ?自己満足か?菱を掃除するなら外来生物であるホテイアオイやらウォーターレタスを掃除すればよかろう。罪のない菱を虐げて仕事をしたつもりか。ちなみに、草刈りによって私が目をつけていたニラも刈られてしまった。私は行政を許さない。

 

 

仕方ないので菱はまた探すとして、この秋を逃すと来年の秋まで菱を食べられない。とりあえず今年は買ってみることにする。

調べてみると、福岡や佐賀の方で栽培されており、通販でも販売されていた。2キロで約5000円。けっこうするんですね。

 

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しかもけっこうでかいね。あと顔がめっちゃ怖い。表情筋が隆々すぎるだろ。


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調理方法は次のとおり。

① 灰汁を取るため、水から茹でて沸騰したら湯を捨てる(一晩水につけておくのでもよい)

② 20〜30分茹でる。固ければ適宜茹で時間を追加。(30分では殻がまだ固かったので40分くらい茹でた)

③ 2本の角の真ん中から脳天を真っ二つにするような感じで割る、もしくは切る。(包丁でも切れるが、殻が固い場合は刃を痛めるので、硬いものにも対応できる刃物がよい)

 


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実がぎっしり詰まってます。

まずは茹でただけのものを頂いてみます。

事前の下調べで得ていた情報のとおり、クワイのようなホクホクシャリシャリとした食感。冷めると今度は冷めたクリのような食感になる。目立った甘味はないが、代わりに特有の風味がある。何にも喩えがたい、菱の香りというしかない香り。初めは不思議な風味に思えるが、すぐ慣れる。

親に聞いてみると、茹で菱は子どもの頃、祭りの縁日によく売っていたそうだ。

 

 

たくさんあるので、料理に使ってみます。

 

まずは素揚げ。一緒に芋と銀杏も素揚げします。

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うーん、ちょっともそもそした食感になってしまった。揚げてる時間が長かったかもしれない。

 

天ぷらはどうか。

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天ぷらの方が食感が楽しめていい。これはおつだ。

 

 

風味が強いので、風味のある他の食材と一緒に濃い味付けの料理にしても主張するだろう。ということで黒酢豚風の炒め物にしてみた。

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酢豚風の割には、ゴーヤ、サツマイモ、ピーマンそして菱という謎の組み合わせだが、雑多な中で菱の個性が全く埋もれてなくて美味い。中華風の濃い目の味付けが非常に合う。素揚げした菱を炒め物に使うともっと美味くなるんじゃないだろうか。

 

 

 

今回私ができなかった採取の様子が、デイリーポータルZの玉置標本さんの記事にタイムリーに紹介された。

天然のマキビシ、ヒシの実を採って食べたい :: デイリーポータルZ

 

本来であれば、私もこうして菱の実を採って「へええ!菱の実ってこんな風に付いてるんですね!(独り言)」とか言っていたはずなのだ。行政にその機会を奪われてしまった。私は行政を許さない。

インコの餌に成り果てているハコベに祝福を - ハコベのお浸し

 

ハコベの花をご存じだろう。春に道端や畑に咲いてるあの小さな白い花である。

よく見るとなかなか可愛い花で、春の七草のひとつであるが、ハコベはどこにでも生えている典型的な雑草に属している。皆さんのハコベに対する印象というと、小学校で飼われているインコのエサ用に通学途中に摘んでいったことくらいではないだろうか。かく言う私もインコの飼育担当だったんですよ。黄色いインコが小学校にいましてね。いや、青いインコだったっけ。そもそもうちの小学校にインコなんていたっけ。まあいいや

 

 

 

実家の畑でたんぽぽを掘っていたときにハコベを見つけたので、そういえばハコベはまだ食べたことなかったなあと思い採取。

 

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ハコベって、すごく小さい植物のようなイメージがあるけど、成長するとけっこう背丈が高くなるんですよね。

 

初物はシンプルに食べるのがしらたま家のルールなので、出汁醤油と鰹節であえてお浸しに。

 

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まず緑の発色がきれい。この時点ですでに美味そう。

そして食感が抜群にいい。軽やかなシャキシャキ感で、噛み心地がよい。例えるなら、ちょっと繊維の強いオカヒジキ。といはいっても繊維もそれほど気になるほどではない。味は、ザ・癖のない菜物。この点もオカヒジキに似ている。総評として、十分美味い部類に入る。むしろ食感のよさに驚いた。

オカヒジキはもともと野草だが今では山形などで栽培され、野菜の仲間入りを果たしている。そうであるならば、ハコベには「あと一歩で野菜」というポジションを付与してもよいのではないだろうか。ハコベを、ただのインコの餌の地位に甘んじさせるべきではない。

 

(採取日 2020. 11. 15)

桂花醬(金木犀のシロップ漬け)のお茶を飲んだら香りが良すぎてカオリ(23歳・社会人2年目)になった

金木犀の香りが好きだ。金木犀の香りを嗅いで初めて僕のなかで秋がやってくる。最近いろんなところで「〇〇をして初めて僕のなかで秋がやってくる」的発言をしている気がする。総合すると、金木犀をかいで、銀杏を食べて、どんぐりを拾って、燗酒を呑まなければ僕に秋が来ないことになっている。秋の到来条件が多すぎる。

 

 

中国では金木犀の花でジャムやシロップを作るという話は以前から知っていた。蒸した餅の上に金木犀のジャムをのせたデザートが中国のある高級料理屋の名物で、そこで会食をしたアメリカ大統領が皿にくっついた餅を箸で持ち上げるのに苦労したみたいな新聞記事を大昔に読んだ記憶があった。

調べてみると日本人によるレシピがいくつか出てくるのだが、何かの果汁や洋酒を使ったり、とろみ付けにペクチンを添加するレシピが多い印象がある。ペクチンとは、ジャムのとろみを生み出している多糖類、簡単にいえば食物繊維で、植物の細胞壁にあるので果物でジャムを作るときには果物自体の水分とペクチンでええかんじの粘性が出る。金木犀でジャムを作ろうとすると、当然水(かそれ以外の水分)を加える必要があり、金木犀ペクチンだけでとろみをつけることは難しい。しかも金木犀自体に強い味があるわけでもないので、何かの果汁などを入れなければ、金木犀の入ったただの砂糖水になるわけである。そういう意味で上記のようなレシピには非常に合理性があるのだが、まずはシンプルな材料だけで作ってみたいという気持ちがあった。

 

YouTubeで検索していたら中国の方がアップした動画がいくつも見つかった。色々見ていくと、作り方はわりと適当だし、人によって全然作り方が違うことが分かってきた。

 

1. 短時間湯通しした金木犀を砂糖と蜂蜜に漬ける方法

桂花(キンモクセイ金木犀)、糖桂花的制作方法、金木犀の蜜漬け、桂花茶,桂花酒,桂花糕。皇家御用高级点心的香料。

 

2. シロップに金木犀を直に入れてそのまま湯煎する方法

桂花釀|人閒桂花落|桂花還可以做什麼?|Osmanthus Stuff

 

3. 金木犀に少量の塩をまぶして殺菌してから金木犀と砂糖を瓶詰めする方法

九月桂花香满天,别浪费,学会秘制“糖桂花”泡茶做糕点两不误! 【小川子熟食】

 

4. 金木犀を水洗いして天日干ししたのち金木犀と蜂蜜を瓶詰めする方法

八月桂花開九月桂花飄香,在家自制桂花蜜,教程詳細易操作,比買的健康

 

 

とにかく、殺菌してから砂糖とか蜂蜜に漬ければいいということらしい。

今回は1のやり方で桂花醬(金木犀ジャムあるいは金木犀のシロップ漬け)を作ってみます。

 

ここまで調べてから気づいたけど、「金木犀 シロップ」で調べずに「桂花醬」で調べるとけっこうたくさんレシピが出てきました。

 

 

 

 

 

花を採取します。

 

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金木犀を至近距離で見たことなんてなかったし、ましてや摘んだことなんてなかったので、ものすごく繊細な、触っただけでハラハラと落ちてしまうような儚い花なのだと勝手に思っていたが、けっこうしっかり茎がついてるし、肉厚なしっかりとした花弁なんですね。

20分くらい採ってると、茎は採らずに花弁だけ採る技術が高まってきます。こうして人類は技術を身につけていきました。

 

 

ざるでふるって茎やゴミを落とし、落としきれなかったものは手で除去してから、沸騰した湯で10〜20秒くらい加熱し、すぐにざるをあげます。

 

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瓶に金木犀、グラニュー糖、蜂蜜を層になるように詰めていけば仕込み完了です。


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時間が経てば砂糖と蜂蜜に香り成分が染み込んでいくと思いますが、詰めてすぐの時点でも金木犀の甘い香りがよくします。

ちなみに、花は食べられるけどわりと苦味がある。金木犀に塩を振るレシピがありましたが、それは殺菌の目的に加えて苦味を抜く目的もあるそうです。レシピに酒を使う方法もあり、アルコールによってタンニンが不溶化されるので、苦味を消すことができます。

 

 

 

さて桂花醬、どうやって使うんでしょうね。動画では茶葉と一緒に急須に入れてお茶にしたり焼き芋に垂らしたり、あとは台湾スイーツとしてよく聞く豆花にかけたりするらしい。豆花美味そう。

とりあえずはシンプルに、桂花醬をお湯割りにして桂花ティーにしてみましょう。急いで風呂に入って、無印のチェックのパジャマに着替えます。

 


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…東京の私大を出て、わたしは都内にある商社の業務職として社会人生活をスタートした。商社といっても旧財閥系の総合商社じゃなくて、何の特徴もないふつうの商社だけど、扱う商材はやたらと多いから平日はバタバタだ。社会人生活2年目。得意先の商材とロットはだいたい頭に入ったし、総合職の担当が風邪で休んだときは何とかその日の発注を代わりにこなせるようになったし、伝票はもう目をつむってでも書ける。

男性の多い職場だから出会いはほとんどない。その話をメガバンクに一般職で入社した大学の友人にしたら合コンに誘ってくれたものの、社交的な性格ではないからあまり気乗りはしていない。今週末までに返事すると言ってあるからそろそろ決めないといけない。そんなことを考えながら、金木犀のお茶を飲む。甘い香りが仕事に疲れたわたしの心を包みほぐしてくれる。

学生時代に思い描いた理想とは程遠いけど、わたしの社会人生活、そんなに悪くないかも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

OLごっこを楽しんだので、ビールでも飲んで寝ます。さいなら。

 

 

(採取日:2020. 10. 18)