日本には8つ、海と接しない内陸県があるがご存知だろうか?まあ知らないでしょうね。海あり都道府県の人たちは、海なし県のことなんてこれまでの人生において1ミリたりとも考えたことなんてないのでしょう。授かりし者は、授かることができずに地面を必死に這いつくばっている人間のことを気にかけるはずもないわけですよ。どうせ「海がないとかw チェコじゃないんだからw」とか言って笑ってるんでしょ。
興味ないでしょうけど、一応答えを言っておくと、栃木、群馬、埼玉、山梨、長野、岐阜、滋賀、奈良の8県です。どうでもいいって?うるせえイナゴぶつけんぞ。
海なし県民はこうした屈折した思いを抱えているのだが、かくいう私も岐阜の生まれ育ちである。海に対する悶々とした思いに苦しんでいた父により、しょっちゅう福井の海に連れて行かれたものだった。
なぜかいい歳して未だに父から釣りに誘われるので、たまに一緒に釣りに行く。
今回は砂浜からの投げ釣りをしていたが、全く釣れないのでその辺の草を見て回ってみる。海岸は特有の野草が多いので、何か面白いものがあるだろう。
一角に草が生えまくってますね。
ちょっと肉厚の葉で、触り心地がフカフカしていて、なんとも品のよい可愛らしい草。「ハマボウフウだ!」喜びの声をあげる私。調べてみたらハマゴウという野草でした。全然ちがうやんけ。(ハマボウフウは葉がもうちょっと艶々していて、葉の縁がギザついているセリ科の植物。)
ちぎって香りを嗅いでみると、優しい芳香がある。ハマゴウという名前は「浜香」から来ており、線香の原料にされていたようだ。他にも入浴剤や枕の詰め物にも用いられ、昔からこの香りは好まれていたらしい。シソ科の植物みたいですね。
食べてみると、苦い。でもハーブ的に使えそうなので、一株頂いていく。
1箇所の根っこを中心に葉が円状に広がっているロゼット型というわけではなくて、枝の途中途中に根っこが生えてる構造。
帰宅後、すぐに調理に使う用事がなかったので乾燥。
乾燥した状態で香りを嗅いでみると、生の葉の香りよりも弱くなったものの、揉むと仄かに香る。西洋のハーブほどの力強さはない代わりに、嫌味のない、誰もがいい香りと感じるような優しさと爽やかさに溢れている。
ラタトゥーユを作る予定があったので、ハマゴウを使ってみましょうか。私はラタトゥーユには必ずタイムを入れるのですが、代わりにハマゴウを使ってみます。タイムはなかなか主張の強い、そして代替の効かない特徴的な香りを持っていますが、果たしてハマゴウはどう仕上がってくれるのか。
まず、玉ねぎとパプリカをよく炒めて水分を十分飛ばす。このときに刻んだハマゴウも一緒に入れて炒める。
別のフライパンでナスとズッキーニをグリル。あまりいじらずに、よくよく焼き目をつけます。
今回はトマト缶は使わず、沢山買っておいたフレッシュトマトを使います。
日本酒を入れて煮込む。ひねが出て美味しくなくなった日本酒を早期に消費したかっただけなので、白ワイン入れたほうが美味しいと思います。ちなみに、鍋は愛用のル・クルーゼです。社会人になって初めてもらったボーナスで買ったもの。
味が馴染んだ2日目以降にいただきます。
うん、美味い。しっかりと水分を飛ばした野菜たちは味を凝縮させ、ナスとズッキーニの焼き目は旨味に変わっており、そこにトマトのグルタミン酸が畳み掛ける。
しかし、ハマゴウは完全に埋もれているな。上述のとおり、ハマゴウは奥ゆかしい子なので、野菜の旨味に完全に飲み込まれてしまいました。ミスキャストです。
色んな食材に埋もれると消してしまいそうなので、もっとシンプルにポークソテーに使ってみましょう。
豚肩ロースに塩胡椒と刻んだハマゴウをまぶして下味をつける。ニンニクにじっくり火を入れ、オリーブオイルにニンニクの香りが移ったら肉を焼く。片面は中火でさっと、もう片面は酒も加えてじっくり蒸し焼きにしていきます。
ポークソテーはシンプルだけに焼き加減でもろに美味さが変わってきて、けっこう難しい。店では両面に焼き目がついたらオーブンに入れて中まで火を通すらしいですが、家庭だとどう焼くのが一番いいんでしょうね。
仕上げに醤油を垂らして完成。
ハマゴウの存在感はやはり強くはないけど、噛んでいると品のよい清涼感がほのかに感じられて、味や香りに少しの複雑味を加えてくれている。もっと多めにハマゴウをまぶせばより明確にそこが感じられたかもしれない。次回は惜しまずに使ってみるか。
ハマゴウ、特徴が活きるような調理方法を見極めなければいけないけど、食材の邪魔をするようなハーブではないので使いやすいんではないでしょうか。次回海に行ったときにはもう少し多めに採ってきて保存するようにしましょうかね。海なし県民なので。
(採取日 2020. 9. 19)