しらたまが道草を採って食うブログ

私ついていくよ どんな辛い野食の闇の中でさえ

秋の味覚イナゴを食べる - 佃煮

秋の味覚といえば、植物質のものでいえば新米、栗、銀杏、松茸、さつま芋、里芋あたりが思い浮かぶだろう。動物質のもので真っ先に思い浮かぶのは秋刀魚だろうが、年々悪くなる漁獲量にかんがみれば、いつまでも秋の味覚ともてはやして大量消費しているわけにはいかない。そうなると必然的に、秋の味覚の動物質部門の王者候補としてイナゴが浮かび上がってくる。まあ、筆者としては戻り鰹だと思ってるんですが。

昆虫のなかで、私がガキの頃からある意味一番馴染みのあるのがイナゴなんですよね。子どもの頃、夏から秋にかけてよくイナゴを採って遊んだものです。子どもだったのでむごい遊び方もしてましたね。ごめんな。

 

 

日本は全国的に虫を食べる文化が昔からあったわけだが、全国的に最も広く受け入れられている虫がイナゴ。1919年、農務省の三宅恒方博士が行った調査の報告書『食用及薬用昆虫ニ関スル調査』では、都道府県ごとの食用昆虫をまとめているが、イナゴはもっとも多くの都道府県で食されている。どうでもいいが、この調査には色んな虫が登場するが、聞き取りの過程で結局何の虫か判明しなかったのであろう「昆虫学上の意味不明のもの」が少数存在する。ダークマターすぎる。

さらに1986年には、地理学者・生態人類学者・民族生物学者である野中健一先生が同様の調査をされたところ、イナゴは45の都道府県で食されていたという結果になった(野中健一『昆虫食にみられる自然と人間のかかわり』1987)。あるものが人間にとっての有力な食材たりうるためには、獲得のしやすさ以前の問題として、発生個体数の多さや発生の周期性が重要な要素になってくるけど、イナゴは水田の1年のサイクルのなかで必ず発生する昆虫であり、食材として利用可能性が大きいというのはよく理解できる。

ちなみに他の虫では、1986年の調査ではハチの子は42、カミキリムシやガの幼虫は29、カイコは27の都道府県で食べられているという結果。ハチの子って結構いろんなところで食べられてるんだな。

 

 

当然、現代においては虫を食べない人の方が多いのだろうが、それでも昆虫食文化は日本各地にまだ残っている。今でこそ、2013年の国連食糧農業機関(FAO)による昆虫の食糧・飼料利用に関する報告書を契機として昆虫食に脚光が当てられ始めているけど、そういう未来志向の話を抜きにして考えたときに、現代日本における昆虫食の位置づけって何なんでしょうね。昆虫食を説明する際に「貴重なタンパク源」という常套句が用いられることがあるが、果たして本当にそれで説明できているんだろうかという疑念がどうも払拭できない。昔の山間部の農村であればそういう面は多少あったとは思うけども、現代では他に安価なタンパク源が豊富にあるわけで、それにもかかわらず昆虫を食べるという文化が残っているのだから「貴重なタンパク源」では説明がつかない。

野中先生は、現代のみならず過去の農村にあっても、昆虫食を「貴重なタンパク源」という栄養学的な考え方でのみ説明することには懐疑的である。天竜川上流ではカジカなどの魚が採れるにもかかわらずざざ虫を採取してきたし、田んぼの少ない地域、しかも海の近くで海産物に恵まれた地域であるにもかかわらず、わざわざ田んぼのある地域に遠出してイナゴを採りに行ったという事例などから、季節のものとして昆虫の採食を楽しむという文化的なものとして捉えている。七草粥だってそうですしね。

昨今の栄養学的・農学的現地からの昆虫食見直しの機運と、昆虫食を気持ち悪がる現代人が大半であって昆虫食を受け入れる準備なんてできていないという事実の間とのギャップは、今後どう埋まっていくんでしょうかね。蟲ソムリエ・蟲喰ロトワこと佐伯真二郎さんがトノサマバッタの食糧利用の研究に着手した頃、ある大学教授から「昆虫食というテーマは、どうやってマーケットを作り出すかという経営学的問題であって、農学的な問題ではない」というようなことを言われたそうだが、昆虫食の供給と需要を考えたときに需要サイドこそが課題であるという認識のもと発せられた言葉なのだろう。(佐伯真二郎『おいしい昆虫記』)佐伯さんもこの本の中で、昆虫食の実用化への賛同者がなかなか現れないことに対して感じた焦りと、虫だというだけで一も二もなく気持ち悪がる社会への苛立ちを吐露している。

 

 

 

 

昆虫食の未来にあれこれ思い巡らせたところで、自分が虫を食べないことには始まらない。まずは手っ取り早く、実家の田んぼにいるイナゴでも捕まえて食べてみるかと思ったわけです。イナゴは小学生のときに食べたことがあって、探検クラブみたいなやつでみんなでイナゴを採りにいって食べたんですよね。それがわりと普通に美味かったので、それ以来、イナゴは私の中で食材扱いになっていたのだが、約20年を経てようやく2回目のご相伴に預かることとなった。

 

イナゴの産卵は9月頃から始まり、9月中下旬が最盛期となる。しかし既に11月中旬、その辺にイナゴはいるが、なんだがサイズも小さく、最盛期の緑緑しさがない。やはり食材は旬に頂くべきですね。

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コバネイナゴ。日本にはハネナガイナゴという、その名の通り羽が長いやつもいるが、僕が見たことがあるのはたぶんコバネイナゴだけ。

 

童心にかえって捕まえます。

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30匹くらい捕まえました。やっぱり9〜10月に比べて圧倒的に数が少なかったです。

 

5時間くらい糞出しして、調理。まず茹でます。f:id:shiratamarr:20201202111330j:image
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茹で上がったイナゴの色は鮮やかで綺麗ですね。日本の秋の色です。とりわけ脚が美しい。ここだけ抜き出すと脚フェチみたいに聞こえるな。

 

初物はシンプルに、をモットーにしているので、まずは油を敷いて炒って食べてみます。

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揚げたカルシウムの味。甲殻類の殻の味というより、魚の骨せんべいに虫の風味を加えた感じ。食べ慣れると中身の味もちゃんと感じられてくる。ほのか旨味があるけど、決して強くないので、あまりシンプルな食べ方だとぼやけるかな。誰がつけたランキングだったか忘れたけど、バッタ科の美味しさの序列は、コオロギ・トノサマバッタ>イナゴ>>>>>ショウリョウバッタみたいな感じらしい。たしかにイナゴはある程度調味料に頼った調理の必要がありそうで、佃煮は保存性だけでなくそういうイナゴの特性も踏まえたベストな調理法なのだろう。

 

ということで佃煮にします。佃煮っていうけど、私のイメージでは田作りのイメージなんですよね。乾煎りして、ちょっと煮詰めた砂糖と醤油を絡めたら完成で、あまりコトコト煮るイメージがない。佃煮は家庭ごとに味が違うと言いますし、まあそのやり方でいきましょう。

 

乾煎り
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実は1匹だけショウリョウバッタが採れたので、試しに食べてみようと思います。

 

できました。
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しっかり炒ったので脚も頭もサックサクで固さは気にならない。口あたりが悪いから脚は取った方がいいという人もいますが、そんなこと気にしてる人は初めから虫なんて食べません。

油で炒ったときよりも明らかにイナゴ特有の味が出ていて、なかなか美味い。砂糖多めの甘辛に仕上げたので酒に合う。信州とか会津グルコース感強めの日本酒を合わせるとよいかと思います。ちなみに、バッタはエビだという言説がネット上で蔓延っているが、どう味わってもエビの風味ではない。


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個体によって美味しさに差があるなと思ってたら、どうやら腹に卵と思しき黄色いものが詰まったやつの方がコクがあるようです。11月はすでに最盛期を過ぎていますが、何組か交尾中のイナゴも捕まえたので、産卵を控えた個体がまだいたのでしょう。

この点に関するツイートをしたら、有識者のフォロワーから、一部の昆虫は鶏卵に含まれる卵アルブミンアミノ酸配列が類似するタンパク質を産生するので、鶏卵に似た濃い脂質とタンパク質の味がすることはありうるとの見解を頂いた。ありがとうフォロワー。

 

いました、ショウリョウバッタ

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別に不味くはないけど、イナゴの方が旨味があると思う。強いて食べる必要はないかな。今「そもそも虫自体、強いて食べる必要はないだろ」って思った人は正直に手を挙げてください。

 

 

 

イナゴはやっぱり食材でした。おはよう日本、今日はここで失礼します。今日も一日元気にお過ごし下さい。

 

 

(採取日 2020.11.15)