【注意】本記事には魚の内臓の画像が出てきます。苦手な方はご注意ください。
近所の川に釣りに行った。いつも野草を採っている河川敷である。いつもパッと見ただけではコイとミドリガメの姿しか確認できないが、魚影の濃そうなポイントがあったのだった。
エサはミミズ。
37センチのギンブナ。でかい。この時期はフナの産卵期で、このシーズンの"乗っ込み" と呼ばれ、産卵を控えたフナが荒食いを始めます。川釣りの世界では人気のターゲットのようです。
その10分後。
65センチのナマズ。お腹が大きいので、こちらも産卵前の雌ですね。
もう一本70センチ近いナマズが釣れたが、これも産卵を控えた個体のようだったのでリリース。ナマズって基本は夜行性なんだけど、目の前に食い物があれば日中でも普通に釣れるんですよね。
結局、フナとナマズを一本ずつ持ち帰りました。
さて、川魚である。
皆さんは川魚、食べてますか?え?アユとウナギくらいしか好んで食べない?そうですか。私もです。
養殖ものならともかく、天然の川魚には特有の臭みがありますからね。
この川魚臭さの原因はゲオスミンならびに2-メチルイソボルネオール(MIB)という2つの物質と言われており、藍藻類や土壌細菌といった微生物によって産出される。雨が降ったあとの土臭さ・カビ臭さ、川原のコケ臭さはこれらによるもの(ただし、雨が降り出した直後の匂いはペトリコールと呼ばれ、土の中のゲオスミンが水の蒸発とともに拡散されるのとは異なるメカニズムで発生します)。人間の鼻はこれらの物質に大変敏感らしく、水道水においても含有量の基準値が設けられていたりする。
生活排水等による水質の富栄養化により藍藻類が増えて、上記の物質が産出され、魚が体内に蓄積することで、晴れて臭い川魚ができあがります。
上記2物質のうち、どちらがより川魚の臭さの原因になりやすいかは不明だが、ゲオスミンの方が言いやすいしなんとなく禍々しい響きが気に入られているからなのか、もっぱらこれらの物質による臭さは「ゲオスミン臭」と総称されることが多い気がする。本記事でも、とりあえずそれに倣って、ゲオスミンならびに2-MIBによる臭さを「ゲオスミン臭」(以下、ゲオ臭と省略)と総称することにする。
さてこのゲオ臭、古来より野食家たちの天敵とされてきました。数多くの野食家たちが、釣った川魚のゲオ臭に挑み、敗れ、そして命を落としていきました。
歴代の勇者たちの勇姿を讃える記念碑を以下に貼っておきます。
鯉のアスファルト臭にフレンチの手法で対抗してみた | 野食ハンマープライス
アメリカナマズ釣ってなめろう作ろうZE! - YouTube
人がなぜゲオ臭に勝てないか。
ゲオスミンはアルコールの一種だが、沸点が270℃もあるので普通の調理過程では揮発しません。そして水に溶けにくいので水にさらしても意味がない。(2-MIBの性質についてはよく知りません。)
ただし、水分がなくなるくらいまでカリッカリに揚げればなんとか五分の引き分けに持ち込めるという情報もあるが、この場合は揚げ油にゲオ臭が移るということなので、揮発したのではなく、単に脂身に蓄積されていたゲオスミンが揚げ油に溶け出たということなんでしょうね。
川魚を食べる前に泥抜きをすればいいじゃないか、と思われた御仁もいらっしゃることと思います。ご推察のとおり、綺麗な水のなかで無給餌で何日間か過ごさせれば、ゲオ臭がなくなっていくことが実証されています。(例えば、ウナギの場合では→ https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/51560.pdf。余談だが、この実験では水槽に2-MIBを添加しているが、なぜかウナギからはゲオスミンも検出されていてちょっと面白い。)しかし、泥抜きという工程をするには大きな水槽が必要であるという物理的な制約があり、さらにアメリカナマズのような特定外来生物の場合は生体移動が禁止されているので、持ち帰りたいならその場で〆る必要があるという法的制約も加わり、なかなか難しかったりします。
一般に言われているゲオ魚の対処法には以下のようなものがあります。
1. 身を酢に漬ける (ウィキペディアではこの方法が有効と記されている)
2. 身を牛乳に漬ける
3. 脂身と血合い肉を避ける (これらの部位にゲオが蓄積するようです)
そしてこれらの方法でも対処叶わず、スパイスや薬味でなんとか誤魔化そうとするけどそれでもどうにもならないという流れがテンプレ。
さて、私も川魚を釣ってしまったからには食べなければならない。
先にフナから捌きます。ナマズは捌くのが大変だから後だ。
それにしてもでかい。
内臓もでかい。
上の皿に乗っている卵と浮き袋は食べます。
内臓が大きかったので、おろしてみたらこのくらいのサイズになってしまった。半身は塩焼きにします。
頭、アラ、卵、浮き袋は煮付けに。
フナ定食が完成。
塩焼きはこんな感じ。皮付きです。
身離れはいい。身質はしっかりしていて、味が乗っている印象がある。しかし川の臭いだ。ゲオスミン波動砲というような強烈なものではないにせよ、川原に行ったときのあのコケ臭さそのものが確かにある。一口目食べたときに一瞬「あ、美味しいかも」と思ったのだ。しかしゲオ臭によってすべてのプラスの要素が吹っ飛んでしまった。
さらに、コイ科の魚にはy字の血合い骨がみっちりとあり、しかもかなり固い。明らかに塩焼き不適格じゃねえか。
煮付けはどうか。
山間部の地域ではコイのうま煮が食されることがあるが、コイがいけるならフナも問題ないだろう。
……お!甘じょっぱい味つけを受け止めるだけの力強さが魚自体にあるし臭みもそんなに気にならないですねいやそんなことないわ臭いですねごめんなさい。
パーツごとに食べてみると、明確に腹回りと卵が臭う。あとは皮。捌くときにさっさと臭い部分をとってしまえば、それほど気にならずに食べられるということなのだろうか。今回のフナはそこまでゲオ臭の強い個体ではないと思うので、適切な処理をすればそれほど問題なかったかもしれない。
まだ半身が残っている。
フナといって思い出すのが、岡山の某地域で食べられているというフナミンチの話。
岡山・豊栄水産から来たふなミンチで「ふな飯」を作ったらびっくりの美味しさだった | 野食ハンマープライス
せっかくなので、身をたたいて炒めて、ご飯に混ぜてみようと思う。
上記のとおりフナは血合い骨があるので、その処理という意味でフナの身をたたくという調理法は合理性があると思う。
牛蒡といっしょに甘辛く炒めた。煮付けと同じ味付けになってしまうと思い、酢と山椒も追加。
あ、これは美味い。使った身の条件は塩焼きと同じだったけど、こちらは臭みがほぼなし。濃い味付けだということと、酢や山椒、牛蒡の香りで紛れたのかもしれない。ただしたたき方が明らかに足りなかったようで、血合い骨がまだまだ気になる。たたくというレベルではなくてミンチにする勢いでかかった方がよかった。
とりあえず、このフナについてはおそらく個体自体の臭みが限定的だったので、内臓と腹回りの身は取り除き、ゲオ臭が目立たないような味付け・香り付けを施し、その上で血合い骨を適切に処理すれば、美味しく頂けた。制約条件が多いと感じるかもしれないけど、素直に美味しいと思える方法があるというのは食べるモチベーションに繋がります。
しかし、もう一尾のナマズの方はどうなんでしょうか。
つづきます。