しらたまが道草を採って食うブログ

私ついていくよ どんな辛い野食の闇の中でさえ

カメムシを食べるとき においは取り除いた方がいいのか問題

 

カメムシという虫は、世界的に見るとアジアやアフリカで食べられているメジャーな食材ですが、その食材としての地位は「あのにおいがあるからこそ」なのか、「あのにおいがあるにもかかわらず」なのか。そこが、皆さんがカメムシを食べようとしたときに悩むポイントなのではないかと推察いたします。

かく言う私も今まで食べたことがなかったのですが、折りしも実家の柿の木の摘果を頼まれたので、きっと今がその時なのだろうと覚悟して今回試してみることにした。

 

 

 

カメムシというやつは基本的に農業害虫とされています。カメムシが果実の汁を吸うと、そこが黒っぽく変色して形もボコボコになってしまう。見た目が大変悪くなってしまって、自家消費以外の道を断たれます。

 

柿の木にもちょこちょことカメムシがいるものの、まだ実がなる季節でもないのであまり数がいない。むしろカメムシが集まっていたのは菜の花。


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おい、なに人んちの菜の花で交尾してんだ。


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アオクサカメムシと思われる。メジャーなカメムシですね。よく見ると可愛い顔してるんですよね。

 


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写真に小さく写っているオレンジと黒のカメムシはナガメ(菜亀)といい、その名のとおりアブラナ科の植物につく。残念ながら捕り逃がしてしまった。カメムシって体が重いのか、指で少し突っついただけでポロッと落ちるんですよね。

 

 

 

 

 

集めた。
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集めたのはいいけど、この後どうすればいいんですか。

何を悩んでいるかというと、冒頭でも書いたとおり、カメムシを食べるにあたってカメムシ臭は活かす方向なのか無くす方向なのか、どちらで攻めればいいのかという話である。

日本の著名な昆虫食家の皆さんはどうやらにおいを活かす方向で食べているらしい。そもそもカメムシにはパクチー香のやつと青リンゴ香のやつがいるらしく、その違いを楽しむには香りを飛ばすなんてありえないということになる。

 

 

参考(参考になるとは言ってない)

 

 

もう一方の「カメムシ臭を活かさない食べ方」ってなんやねんという話なのですが、立教大学野中健一先生が書かれている『虫食む人々の暮らし』(NHKブックス、2007)のなかで、カメムシを調理する前工程で徹底して臭みを取り去る様子が描かれているんですよ。それを見て、「やっぱりカメムシを日常的に食べている人にとってもカメムシって臭いんだな」と思ったものである。

以外抜粋

 

2004年4月に私は、南アフリカ共和国東北部へさまざまな民族の人たちの昆虫との関わり合いを調べようと調査旅行に出かけた。

(中略)

採集されたカメムシは、バケツの中でまだ生きてガサガサ動いている。そこに少量の熱湯を注いで、木べらでかき混ぜる。このような目に遭わせることにより、カメムシは臭い物質を分泌液として発射し発散させる。カメムシの独特のにおいは警戒物質で、攻撃への防御のために発散されるものである。熱湯をかけてかき混ぜるこのやり方は、その物質を体内から発散させてしまうのに効果的なのだ。(中略)においを取り除くため、これを三度繰り返し、におい成分を出し切ることによって、カメムシの体からにおいが取り除かれるのだ。

(中略)

採集したカメムシの中には、死んでしまったものも出てくる。そうなるともはやにおい物質を発散させることはできないが、それはそれで別の方法が考案されている。まず、死んだカメムシの頭を手で摘んで取り除き、内臓をちぎられた首から指で絞り出す。出てきたものをギュッと石になすりつけてこすり、取り除く。徹底してにおいのもとを取り除く。

 

野中健一『虫食む人々のくらし』p110-113

 

においが処理されたカメムシは、このあと茹でて天日干しにされる。干しカメムシはそのままおやつや酒のつまみとして食べられることもあるし、炒め料理にして彼らの主食であるトウモロコシ粉のお粥のおかずになることもあるらしい。

 

東南アジアでも虫がよく消費されるが、ラオス農村部でのカメムシ食事情についてもこのような記載がある。

採ってきたカメムシは、素焼きにしてそのまま食べてもよいが、塩や調味料をかけて炒めれば、よいおかずになる。堅い頭や翅は取り除いて柔らかな身の部分だけを食べる。チェオと呼ばれるラオスのおかず料理に、このカメムシもよく使われる。素焼きにしたカメムシを鉢に入れて、杵で搗き潰し、ニンニク、トマト、トウガラシ、ミントなどの野菜に、魚醬、塩、化学調味料を混ぜて、さらによく搗いてペースト状にしたものだ。お櫃からモチ米を手に取って握り、チェオにチョンチョンとつけて食べる。日本のつけミソのような感覚である。辛み、酸味とカメムシの味が絶妙に調和していて、食が進む。コオロギのチェオとはまた一味違って、スゥーッとした感じがする。

五ミリ程度の小さなカメムシで、チェオを作ってもらった。これはカメムシを炒めて、レモングラスとトウガラシとを合わせて搗いて擦り潰したものだ。トウガラシだけではただ辛いだけのふりかけになってしまうが、レモングラスが入ることによって、カメムシの独特のにおいは打ち消され、トウガラシの辛みがカメムシの濃厚で爽やかな辛みと甘みのハーモニーとなる。

(中略)

だが、ここで疑問が生じる。私がラオスの村で見た限りでは、別段におい抜きの処理はしていないのだ。村人は採りたてのカメムシをすぐさま料理していた。それでできあがった料理が、とりたてて臭いということもない。聞くところでは、ときには生きているカメムシに熱湯をかけて、においを取り除くこともあるというのだが。こちらは、南アフリカで見た方法に近い。だが、採ったあとに死んでしまったカメムシには、お湯をかける必要はなく、そのまま調理すればよいのだと彼らは言う。たしかに、素焼きのカメムシを食べても生きていたときのようないやなにおいは感じられない。

 

同書、p122-124

 

ラオスのエピソードでは、このあと、カメムシは生で食べる方が美味しい、このにおいがいいのだ、と言う人々のことも紹介しているが、そのような場合でも人によってにおいへの許容度は異なるらしいことが述べられている。

結局、「臭いから美味い」なのか「臭くないほうが美味い」なのかは人の好みということだが、どちらの事例でも、基本的にはにおいは処理されるべきものとされている。主食のおかずとして食べるという点がどうやらポイントなのではという気がする。

 

 

 

 

 

今回私が捕獲するアオクサカメムシは、そのまま嗅ぐといかにもカメムシな臭いがする。カメムシのにおいを除去するなら、捕りたて元気な今がチャンスである。さて、においを取り除くのか残すのか。あのにおいが口の中に入るとどうなるのだろうという好奇心もあるが、私は昆虫食に関しては人文地理学的な知的好奇心が強いので、実際にカメムシが食べられている地域の人々の感覚を知りたいという思いが強い。

 

ということで、カメムシには悪いが容器を振って、カメムシたちににおいを出してもらいます。
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念のため蓋を開けて確認してみるか…

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くっせ

 

 

しっかりにおいを出してくれてます。この程度でにおい成分が体内から消えたのか全くわかりませんが。

 

 

 

 

 

 

 

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この子たちを、


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まず下茹で。虫を油で炒めたり揚げたりするときはまず茹でろって先人が言ってた。生のまま油に入れると爆発するので、まず茹でて体内のタンパク質を凝固させる。

 

油で炒めるとすごい勢いで油が撥ねるので気をつけてください。
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美味しそうですね(大嘘)


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この腹の横の穴からにおいを出すんですねぇ。

 

 

サクッ…

 

翅(はね)は取り除いてないですが、小型のカメムシなのでそんなに気にならないです。

 

(・ω・)!

 

すごくコクがある。脂質を感じさせる濃厚さがある。そして見事ににおいが取り除かれている。この味なら、上に出てきたラオスのチェオという食べ方がすごく美味そうに思える。豚肉のリエットに唐辛子とハーブとナンプラーを入れて、そこに少しのバターと干しエビを入れた感じなんじゃないかな。チェオについての記述は他の本でも読んだことがあって、コオロギで作るのが一般的なのかと思ってたけど、カメムシを使うのもよくわかる気がする。

 

 

2匹目も食べてみましょうね。

 

あ、くっせ…

 

ペットボトルの振りが足らなかったのか、もしくはそのときにはすでに死んでいたのか、この個体はにおいが強烈に残ってました。全面的にパクチーの香りが広がります。「カメムシパクチーのにおい」っていうのは、比喩じゃなくて本当なんですね。思った以上にパクチー香。言うなればパクチーが好きな人であればこのにおい自体は受け入れられると思う。鼻で嗅いだときと、食べて含み香として感知したときとで、においの印象がけっこう変わるのが面白い。

そして、なんか苦いですね。直前に食べていたものの影響なのかよくわかりませんが、まぁ野食してると「なんか苦い個体」には一定の確率で当たるものなので気にするほどではないだろう。辛みは全然感じなかったので、このアオクサカメムシは辛くない系のカメムシなんですね。

 

 

夕食と一緒にカメムシを食べてたんですが、この日の夕食は冷凍の焼き餃子だったんですよ。市販の餃子ってにおい強いじゃないですか。正直言って、カメムシより餃子の方が普通にくさいのでは?って思ったんですよ。さっきのにおうカメムシの後に餃子食べたら、カメムシのにおいも味も一瞬で餃子に打ち消されて、そのあとまたカメムシを食べてももう餃子の余韻しか感じられなくなりました。とにかく餃子の味とにおいが強すぎる。別に私は添加物アンチでもオーガニック厨でもないですが、カメムシよりも冷凍餃子のほうがよっぽどやべえもん入ってるんじゃないかとすら思いました。

 

 

 

カメムシのコクにはハーブやスパイスがすごく合いそうなので、次回は唐辛子といっしょに炒めて甘辛酸っぱいエスニックな味付けで食べてみてもいいなと思いました。

 

 

(採取日: 2023. 5. 4)