1年前に食べたフジの実が美味かったんですよ。
そういえば今年は拾いに行くチャンスがなかったなあと思いながら春を迎えようしていた、そんなタイミングでフジの実に遭遇した。
芝生が綺麗に敷かれたような公園って基本食材を見つけにくいんですけど、フジはそんなところで採れる数少ない食材です。
フジの実(さっきから実って言ってるけど正しくは種)って長いサヤに入ってるんですが、秋ごろになるとこのサヤがパチンと爆ぜて中の種を散布します。しかしこの藤棚には2月の終わりになっても爆ぜずに木にぶら下がったままになっているサヤがとても多い。種子散布ヘタクソかよ。
せっかくなので木に残ってるサヤから新鮮な実を取り出してみることにします。
サヤってとても硬くて、イメージとしては木の皮とか薄い木材みたいな質感です。手で割ることは難儀なので足で踏んで体重をかけて割っていきます。体重をかけただけでダメならガンガン踏む。一番確実なのは、固い場所に置いて石で叩く方法かなと思う。
たくさん入ってますね、もっと採りましょう。イヌの散歩に来たおばさんがこっち見てるけど気にせず採りましょう。
ちなみに、地面に落ちてから時間の経過した実(写真右)とサヤから出したばかりの実(写真左)を比べると、前者の方が赤っぽくて表面のシワが多く、触った感触もフカフカと若干の柔らかさがある。
これがサヤの断面。薄い木板が3枚くらい重なってるみたいな構造してる。
サヤの表面にはうぶ毛みたいな毛が密生していて、ビロードみたいな光沢を醸し出しているのが何ともキレイです。
こんな捻れたサヤを見たことある方は多いと思うが、フジは十分に乾燥すると一対のサヤが互いに逆方向に捻れて、その勢いで種子を飛ばします。自力散布とか自動散布とか呼ばれる種子散布の方法で、鳥や小動物のエサとなって運ばれるでもなく、タンポポやカエデのように風に運ばれるでもなく、ハマダイコンやココヤシのように水に運ばれるでもなく、自らの力で種を飛ばすという真面目なやつである。
この種子散布はなかなか勢いがあるようで、寺田寅彦の随筆にそのことについて触れたものがある。
昭和七年十二月十三日の夕方帰宅して、居間の机の前へすわると同時に、ぴしりという音がして何か座右の障子にぶつかったものがある。子供がいたずらに小石でも投げたかと思ったが、そうではなくて、それは庭の藤棚の藤豆がはねてその実の一つが飛んで来たのであった。
(中略)
それにしても、これほど猛烈な勢いで豆を飛ばせるというのは驚くべきことである。書斎の軒の藤棚から居室の障子までは最短距離にしても五間はある。それで、地上三メートルの高さから水平に発射されたとして十メートルの距離において地上一メートルの点で障子に衝突したとすれば、空気の抵抗を除外しても、少なくも毎秒十メートル以上の初速をもって発射されたとしなければ勘定が合わない。
(『藤の実』)
秒速10メートルというのは時速にすると36キロメートルなのでなかなかの速さであるが、新海誠[注1]の『秒速5センチメートル』の冒頭を思いつきで借用すればこんな感じである。
明里:ねぇ、秒速10メートルなんだって。
隆貴:えっ、なに?
明里:フジが種を飛ばすときのスピード。秒速10メートル。
隆貴:ん〜。……ん?
明里:ねぇ、なんだか、まるでソ連の5.45x39mm弾みたいじゃない?初速が出るの。小口径化したから。
隆貴:明里、そういうことよく知ってるよね。
[注1] 新海誠作品のなかで『星を追う子ども』が好きだと言ったときに困ったようなリアクションするのやめてもらっていいですか。
炒る以外の調理方法を知らないので、今回も炒って食べました。フジに含まれる毒成分については前回の記事に書いたとおりです。前回はビビって食べるのを25粒くらいに留めたんですが、結局大丈夫だったので今回は45粒くらい食べてみる。
やっぱり美味いですね。ちょっと青っぽい香りのある炒り大豆とかイカリ豆みたいな感じで、豆らしい味の濃さがある。ポリポリした食感を楽しむなら火はしっかりと入れた方がいい。
結局、食べてからも腹の調子は問題なかったです。とはいえ体質は人それぞれですので、食べるときは自己責任で。
(採取日: 2023. 2. 24)