しらたまが道草を採って食うブログ

私ついていくよ どんな辛い野食の闇の中でさえ

流れてくる小鮎の死骸を掬って食べる そして冷水病の話


 

最近夏場に釣りにいくとなると、もっぱら琵琶湖でのハス釣りである。もう滋賀に住みたい。

ハスは砂地の岸近くや琵琶湖流入河川にいるんですけど、砂浜でハスが回遊してくるのを待つのがしんどいので、魚影の濃い川で釣ることが多くなった。ただ、多くの琵琶湖流入河川では小鮎その他の水生資源保護のため9月に入ると禁漁となるので、滑り込みで遊びに行ってきたわけです。

 

 

 

 

ここ2ヶ月通っているポイントなのだが、今回は明らかに川の様子が違った。

 

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なんか死屍累々としてる…


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魚も流れてくる…

 

 

見てみると、すべて小鮎。

この川は小鮎もたくさんいるところで、1ヶ月前に来たときと変わらず小鮎が群れをなしてその辺を泳いでいるんだけど、死骸が大量に出現している。

 

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橋の上から撮った写真。ちょっと分かりづらいですが、見える白い点々が小鮎の死骸(2つくらい空き缶が混じってます)。

 

 

直近の大雨の影響かとも思ったけど、川は多少水が多いものの濁りもなく、どうも関係なさそう。

もうね、次から次へと流れてくるんですよ。その死骸も、死んだばかりと思しきものから、死んで時間が経って朽ち始めたようなものまで様々。

 

 

 

 

 

 

 

これ、食べられるかな?

 

 

 

 

 

きれいな死骸も流れてくるんですよ。しかも今日はタモを持ってきている。とりあえず掬いましょう。

 

 

 

川の中に突っ立っていれば、その辺を流れてくるのでこれを掬っていく。

10分そこそこでこの量。

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ただし、とりあえず流れてきたやつを何も考えずいったん全部掬ったので、状態はまちまちです。


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このへんは黒々としていて綺麗。体も柔軟性を保っている。


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体表のツヤがなく薄い黄土色っぽく変色しているもの。体表にズタズタの傷があるものもある。


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そして体に穴が空いているもの。背鰭や尾鰭が朽ちているようなものもいる。どうやら何かの病気っぽい。

 

 

調べてみると、鮎が感染する冷水病というもの。

フラボバクテリウム・サイクロフィラムという細菌に感染することにより発症する致死性感染症で、もともとは北米のサケ・マスの病気として知られていたもの。この菌は16度以下の低温の淡水環境で増殖するため、冷水病という名前が付けられている。日本では1987年に徳島県内の鮎養殖場において琵琶湖産の鮎種苗*から初めて確認された。その後、90年代から全国的に鮎の病気として蔓延。なぜ全国で蔓延したかというと、放流・養殖の目的で、ある場所で捕獲された鮎が全国の河川に放流されるということがよく行われているため。琵琶湖産の小鮎は、養殖種苗や放流という目的で全国に出荷されている。

 

* 琵琶湖産の小鮎についても説明しておくと、小鮎は琵琶湖のみに生息する非降海型の鮎で、一生を琵琶湖内で過ごす。「小鮎」といっているのは鮎の子どもという意味ではなく、海に比べて餌となるプランクトンが少ない琵琶湖で一生を終えるため、降海型の鮎ほど成長しないことを捉えた名称である。琵琶湖産の小鮎は養殖種苗として全国に出荷され、また全国の河川に放流されている(鮎資源の保存という名目だけでなく、琵琶湖産の小鮎は縄張り意識が強いので、友釣りでよく釣れるため釣り人から喜ばれるという理由もある)。しかし、琵琶湖産の小鮎は降海型の鮎とは生態的・遺伝的に大きな違いがあり、放流しても鮎の再生産には結びついていない可能性が指摘されている。また、仮に交雑がうまくいったとしても、その流域固有の鮎の遺伝的攪乱が起こることになる。

 

冷水病の症状は、体表の潰瘍(体に穴が空く)、体色の白濁、下顎の出血など。上で挙げた写真を改めて見ると、いずれの症状も確認できる。現在、冷水病に効果的なワクチンは実用化されていないため、飼育施設や器具のの消毒徹底、保菌個体が見つかった場合の早急な除去、種苗の健康管理徹底など、とにかく流通・飼育の過程で菌を広げない、運ばない努力をしましょうというのが国の方針になっている(参考: 農林水産省『アユ冷水病防疫に関する指針』https://www.maff.go.jp/j/syouan/suisan/suisan_yobo/ayu_reisui/attach/pdf/index-2.pdf)。

 

 

 

 

 

冷水病にかかった鮎を食べても問題はないか。

フラボバクテリウム・サイクロフィラムは高い水温下では増殖できず、養殖においても一時的に飼育水温を上げるというのが冷水病対策として有効とも言われている(ただし、水温変化による飼育個体への負担があるとかないとか)。つまり、ちょっと火を通せば簡単に死滅してしまうような菌なので、普通に加熱調理すれば問題ないと思われる。

 

 

いや〜 今年まだ稚鮎/小鮎の天ぷらを食べてなかったんですよね。初夏の味をまさか8月の終わりに味わえるとは思わなかったので嬉しくなってきました。まぁ病気にかかった死骸なんですが。

 

 

 

 

 

 

 

結局2時間くらい掬って80匹くらい確保。きれいな個体を選別したうえでの80匹なので、そのくらい大量に死んでます。そしてそのほとんどがすごく痩せてるんですよ。ちょっと暗い気持ちにもなってきます。

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それにしても、100メートルくらい上流にシラサギの群れがいるんですけど、こいつらはこの死んだ小鮎は食べないんですかね。「や✋🏻我々は生きた新鮮な魚しか食べませんので✋🏻」と、そういうことなのか。スカベンジャー枠はトンビとお前に譲ると、そういうことなのか。

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かなり数があるので、数日間小鮎で食い繋ぐつもりで天ぷらと甘露煮を仕込んでいきます。

 

さすがにちょっと気味が悪かったので最初は内臓だけは取り除いていたのだが、数が多すぎて面倒になってきたので半分は内臓つきのまま調理することに。どうせ加熱するしね。やっぱり小鮎の美味しさは内臓の苦味があってのことですからね。内臓とっちゃうなんてナンセンスですよ(正常性バイアス)。

 

 

 

 

 

 

 

 

天ぷら
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結論から申し上げるとめっためた美味い

全然問題なしですよ。小鮎が出回る6月前後に比べると個体が大きいので、その分骨が気になるようになるけど、それ以外はただただ美味しい小鮎。やっぱり内臓の苦味を味わうために小鮎食べてるみたいなとこある。

 

 

甘露煮。醤油、ざらめ、味醂、日本酒(鷹勇)だけで炊いていく。
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こちらもめっためた美味い。

醤油色に染まってないけど、味はしっかり付いてます。30分くらい炊いただけだけど柔らかく、鮎らしい香りも健在。素材として美味い魚はシンプルな調理で十分美味い。

 

本当にこの3日間ずっと小鮎の天ぷらと甘露煮で食い繋いでいる。今頃気づいたけど、小鮎を炙って炊き込みご飯にもすればよかったな…

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冷水病で死んだ小鮎は、琵琶湖で他の魚やらトンビやら微生物の餌となり糧となるのだと思いますが、この大量死を目の当たりにすると、なんか放っておくのも可哀想になってくるのですよ。富山に遠征してホタルイカとか掬ってる方、夏には琵琶湖に来て死んだ小鮎掬ってください。

 

今回の出来事で鮎の冷水病という問題を初めて知ったんですが、これ完全に人間が引き起こした問題なんですよね。魚をたくさん釣りたいという鮎釣り師の欲と、夏に鮎を食べたがる消費者の無知に応えるかたちで、地域固有の鮎ではなく手っ取り早く他所から鮎を持ってきて放流するという漁業が成立しているという構図。

ウナギもそうだけど、ここまでして夏に鮎を食べなければいけないんですかね。もうちょっと大きな問題として世間に認識されてもいいような気がします。

 

 

本当にいい勉強になりました。ごちそうさまでした。

 

 

 

(採取日: 2021. 8. 26)

 

 

 

【参考】

広島県立総合技術研究所 水産海洋技術センター 『アユ冷水病の病原機構の解明 と防除技術の開発』http://www.fishexp.hro.or.jp/cont/jochokai/conference/hioc3b0000001cyx-att/H27_09_koen3.pdf

 

島根県内水漁業協同組合連合会『鮎の川を復活させるために 「しまねの鮎づくり」宣言』https://www.pref.shimane.lg.jp/suisan/ayuzukuri.data/ayusengen.pdf

 

・友釣 酔狂夢譚 アユの放流

 

冷水病 - Wikipedia